2026年、メガバンクがいよいよWeb3のキープレーヤーに躍り出る。昨年11月、3メガバンク共同ステーブルコインに向けた取り組みを発表。また暗号資産規制の金融商品取引法(金商法)への移行で銀行子会社による暗号資産ビジネスが可能になる。
三井住友フィナンシャルグループ(以下、同社グループを総称して、SMBCグループ)の磯和啓雄氏(執行役専務 グループCDIO)は、デジタル化、DX、そしてステーブルコインについて積極的に発言している人物だ。昨年夏に登壇したイベントではステーブルコインは「連携してやりましょう」と発言していた。
磯和氏に3メガバンク共同構想、金商法下での暗号資産ビジネス、トークン化・オンチェーン化が銀行に与える影響を聞いた。
3メガバンク共同ステーブルコインの狙い
──3メガバンク共同のステーブルコインは、昨年夏に「連携してやりましょう」との発言があったものの、実現には驚かされた。いつ頃から具体化したのか。
磯和氏:我々は2020年頃から海外事例を調査したり、PoCを始めていた。2024年に国内の法整備があり、2025年には米国でGENIUS(ジーニアス)法も成立し、取り組みが本格化した。3メガバンク共同構想はその延長線上にある。金融庁も米国の動きには危機感を持っていて、音頭を取っていただいたところもある。
共同発行は決定したわけではなく今からPoCを進めていくが、最初から条件を揃えることは、以前からやりたかった。なぜなら、キャッシュレスの当初はさまざまなものが乱立した。そうではなく、同じ条件や規格のもと、インターオペラビリティが確保されたプラットフォーム上で、皆がアプリケーションレイヤーで競い合う姿を当時から描いていた。
ステーブルコインは日本では収益化も難しい。米国では裏付け資産として短期国債を保有して利回りを得ることができるが、日本では難しい。その意味では、良い方向に動き出したと考えている。
──収益化は難しいが、金融インフラとしては重要になる。
磯和氏:インフラとしては早く作っておかないといけない。やや刺激的な発言になるが、米国発のステーブルコインが日本で広く流通して、例えばビットコインを買うために多くの人が使うようになると、日本は通貨発行権の一部を失うことになりかねない。
米ドル建てステーブルコインの時価総額が直近では約40兆円に達し、ビットコイン取引ではもう必需品になっている。グローバルで見れば、いまや機関投資家はもちろん、ソブリン(政府系ファンド)もステーブルコインを使ってビットコインを購入している。日本はビットコインが普及しつつあるのにステーブルコインがなかった。その状況には危機感を覚えていた。
発行はいつになるのか?
──3メガバンク共同ステーブルコインのタイムライン、具体的には発行予定は見えているのか。
磯和氏:実証実験なので、発行などのタイムラインは見えていない。まず、三菱商事で実証実験を行い、ユースケースを探る。例えば、キャッシュマネジメントシステム(CMS)などはイメージしやすいだろう。
三菱商事のようにグローバル展開している企業は世界各地にお金を保有している。一箇所に集められれば効率的な運用が可能だが、金融機関にはカットオフタイム(営業時間の締め切り)があって、ある時間になるとお金を動かせなくなる。つまり、グローバルでみると、社内に金利のつかない大きな金額のお金が一晩寝ているだけという状態が普通にある。ひとつにまとめて24時間365日有利に運用できれば、企業の資金効率は良くなる。
とはいえ、各社で優先順位は異なるので、クロスボーダー送金なども視野に入れつつ、ユースケースを具体化していく。あとは当然、AML/CFT(マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策)の検証も行う。
また3メガバンクが共同して行う意義のひとつとして、既存の決済システムとの接続がある。今は既存の金融システムとブロックチェーンをベースとした分散型金融が別になっている。これがようやく繋がる接点が見えてくると、スケールするチャンスが一気に生まれるのではないか。
──キャッシュマネジメントは日本企業ではまだ優先順位が低いのか。
磯和氏:そうではない。各社とも意識しているが、現状ではオペレーションが非常に難しい。時差があり、オペレーションする人が必要になるので難易度が高い。
だからこそ、ブロックチェーンがフィットする領域だと考えている。外銀の一部がチャレンジしているが、まだ一般化していない。技術革新で便利になる余地が大いにあると思っている。
──一方、SMBCグループは2025年4月、Fireblocks、TIS、AvaLabsとステーブルコイン領域での共同検討開始を発表している。三井住友銀行は本体に信託ライセンスを持ち、単独発行も選択可能だ。このプロジェクトと3メガバンク共同構想との関係はどうなるのか。
磯和氏:このプロジェクトは、ウォレット、決済オペレーションなどについての我々の技術スタディであり、3メガバンク共同構想とは補完的なものになる。我々の知見を深めるために引き続き、並行して取り組んでいくが、3メガバンクの共有基盤ができあがれば、その上に乗せるためのさまざまなアプリケーションが必要になる。そのための知見を深めている。
先行するJPYCとの関係、優位性
──日本円建てステーブルコインとしては、2025年10月にJPYCが発行された。JPYCは現状、発行に100万円の上限があるが、比較した時の優位性をどう見ているか。
磯和氏:3メガバンク共同構想の一番の特長は既存システムとの接続にある。全銀ネットや日銀ネットと接続できれば、非常に便利になると思う。JPYCがすぐに日銀ネットや全銀ネットに接続できるかというとハードルは高いだろう。
ただし、3メガバンク共同ステーブルコインが小口決済までカバーするかというと、そこはあまりターゲットには入っていない。今でも、国内大手銀行が共同で運営する「ことら送金」(スマホアプリを使い、1回10万円までなら手数料無料で個人間で送金できるサービス)は、全銀システムに直接はつながっておらず、連携した別のシステムになっている。飲み会の精算などに非常に使われているが、逆にそうした小口決済まですべて全銀ネットで処理していたら負荷が大きくなる。
同じことがJPYCと3メガバンク共同ステーブルコインの間でも成立するのではないか。その意味でJPYCには「一緒に頑張ろう」と言っている。
──では、3メガバンクが個人向けにウォレットを出すようなことは想定していないのか。
磯和氏:現状は考えていない。ただし、インターオペラビリティ(相互運用性)は確保したいと思っている。
──銀行の取り組みを見た時には、デポジットトークン(DP:トークン化預金)もある。そちらではなく、ステーブルコインに注力している理由は。
磯和氏:デポジットトークンの可能性を排除しているわけではないが、既存の預金口座のトークン化という意味では基幹システムに手を入れることになり、初期コストがかなりかかる。また特定の銀行のエコシステムの中で使うものになる。キャッシュレスもそうだったが、エコシステムはできるだけ広い方が良いと考えている。
金商法下での暗号資産ビジネスの可能性は?
──暗号資産規制の金商法移行が実現すれば、銀行子会社の暗号資産業務(暗号資産の発行・売買・仲介)が可能になる。暗号資産領域では、現時点でどのようなビジネス展開を想定しているか。
磯和氏:今、具体的な想定はない。だが暗号資産ETFの組成や提供は当然考えていかなければならないという認識はある。暗号資産の仲介、カストディなどの検討もデジタル戦略部だけでなく、グループ会社全体でディスカッションしているが、まだ具体的なところまでは進んでいない。
ユーザー保護、ボラティリティの問題、システム対応など、課題を洗い出している。うまく対応していかないと、日本はまた世界から遅れてしまうことになりかねないと思っている。
──Oliveのメニューに暗号資産が追加される可能性はあるだろうか。
磯和氏:タイミングを見ながらだが、現状はまだ具体化していない。
──Web3サービスの場合、セルフカストディウォレットでの管理、つまり自己責任での管理が大前提となる。そこは既存の金融サービスと相容れない面があるのではないか。
磯和氏:日本の金融慣行にアジャストしないといけないと思っている。Web3における自己責任の考え方がどこまで浸透するか。ボラティリティリスクはもちろん、秘密鍵管理をできるだけ利用者に負担に感じさせない形で提供できるのか。あるいはやはり金融機関がカストディアルウォレットを提供するのか。そこは「海外がこうだから」ではなく、日本のお客様を考えたうえで何を提供するかを考えていく必要がある。
一方で、技術の進展は早い。なにか基準を作ってもすぐに時代遅れになる。技術の進展と社会の常識をうまく調整していかないと、ネガティブな方向に動くこともあるので、そこは注意深く進めたい。
トークン化・オンチェーン化は銀行の“本丸”を変えるか
──ステーブルコインやデポジットトークンなどの “決済” 関連だけでなく、資産のトークン化/オンチェーン化は、銀行の大きな収益源でもあるホールセールや資産運用、さらには銀行間の取引や決済にも広がっている。金融のオンチェーン化はどのぐらいのタイムスパンで銀行に影響を与えるだろうか。
磯和氏:決済、資産管理、市場・証券取引の3つは大きく変わっていくだろう。決済が、低コスト、即時、高頻度、さらにクロスボーダーになれば、ものすごい数になる。さらに24時間365日お金が集められ、運用されるようになる。
そうなると、これはまったくの想像だが、コンピューターや電力の問題もバランス良く進めていく必要が出てくる。世界中の企業が世界中で即時・大量の決済を行うようになると、量子コンピューターのようなものが登場して今とは変化していくのではないか。資産のトークン化・金融のオンチェーン化だけで一気に変わるのではなく、計算力の飛躍的な向上も必要だろう。コンピューターの技術革新があり、資産のトークン化が進めば、決済は今とはまったく違う世界になるかもしれない。
またRWA(現実資産)のトークン化も進めば、いろいろなものに投資が可能になって、投資範囲が横方向に拡大する。さらに一般の人には馴染みの薄い世界だが、金融機関同士が資金や証券をやり取りする、いわゆるインターバンク市場も効率化、高速化が進み、銀行の仕事は大きく変わるだろう。
ただし、タイムスパンは繰り返しになるが、トークン化だけではなく、他の技術革新も関係する話になる。我々だけではどうすることもできないところもあり、環境変化をよく見ながらアジャストしていくことが大切になる。
──資産のトークン化・金融のオンチェーン化が進むと電力が足りなくなってしまう。
磯和氏:ものすごいお金の動きになる。24時間365日、DvP決済(資産の移転と資金の決済を同時に行う仕組み)が行われれば、ものすごい処理量だ。おそらく今、量子コンピューターを開発している人たちは、そうしたユースケースは眼中にないだろうが、金融は量子コンピュータの一番のユースケースになると考えている。先日も量子コンピューターのスタートアップを一緒に訪問してきた。
その意味で「2026年のキーワードは?」との質問には、「一周回って、プログラマビリティ」と答えている。ブロックチェーンのメリットとしてプログラマビリティがあげられるが、生成AIが登場し、量子コンピューターが出てきて、いよいよ現実味を帯びてきた。AIエージェントが資産を運用する世界もかなり近づいていると感じている。
──AIが人間に代わって取引するようになると、今の高頻度取引を皆がやるような世界がやってくる。
磯和氏:金融的には非常に面白い世界になるだろう。電力、コンピューターで技術革新が進み、通信ネットワークには光通信が登場している。逆に言えば、ビジネスの大きな変化は、1個の技術革新では一気には起こらない時代になっていると思う。
電気のユースケースは、エジソンが電球を発明してから100年間はほぼそれだけだった。電球だけ。発電所が作られ、送電設備が整って、初めて電気は多様な用途に使われるようになった。
ブロックチェーンが電気の発明だとすると、それを支えるインフラが少しずつ追いついてきている。電気は100年かかったが、今は5年10年ぐらいのタイムスパンだろう。
銀行・金融の未来像とは
〈東京・渋谷のOlive LOUNGE|Shutterstock〉
──この先、銀行や金融はどのような役割を果たしていくのだろうか。
磯和氏:現在とはかなり変わっているだろう。AIエージェントが人間に代わって取引するようになる。その時に「AI-Ready」なサービスをどう出せるか。例えばスマートフォンは数年後には、今の形ではなくなるはず。何かを行うためにアプリを探して使うようなことはなくなって、AIエージェントに自然言語で依頼すればすべてやってくれる時代になる。技術的には今でも可能だろう。
金融の世界もそうなるはずだ。その時にユーザーに選んでもらえるAI-Readyなサービスを出せるかの勝負になるだろう。
だが、皆がAIを使うとなると違いや差はなくなっていく。だからこそ、人間の力が重要になると考えている。ネガティブケイパビリティ(不確実性が高い状況の中で性急に結論を求めず、考え続ける能力)が大事だと言い続けている。AIが普及し、差がなくなっていくなかで、ユーザーに選んでもらうためには「この先、何が起こるか」を人間が考え続けて、いろいろなことにトライアルし続ける。それが銀行の仕事になってくる。
──銀行のイメージ、銀行の仕事がまったく変わる。
磯和氏:10年前を思い出すと、ほとんどの人が店頭に来て、伝票を書いて、ハンコを押していた。今、そんな光景は見ない。10年後の今、我々はスターバックスと融合した店舗なども運営している。銀行がやることはかなり変わるだろう。
──一方でAIやクラウドといった外部インフラを活用するようになると、銀行にとっては新たなリスクが生まれるのでは。
磯和氏:そこは非常に大きな問題だ。ただ一点、大前提として、我々がクラウドネイティブな会社になっているかというと、そうではない。自社で運用するメインフレームがある。ただし、Oliveや中小企業・スタートアップ向けのTrunkといったアプリケーションレイヤーはクラウド化している。AI時代に対応したデータの持ち方を考えていく時代になっており、すべてクラウド化すれば良いという時代ではないと感じている。
近年、MCP(Model Context Protocol)という技術が登場して、AIがオンプレミス(自社運用)環境とクラウド環境を連携して扱えるようになった。新しい時代に合ったデータの持ち方、セキュリティを追求していかなければならない。
──最後に改めて2026年、チャレンジしていく領域、注目していることはなにか。
磯和氏:2026年は、繰り返しになるが「1周回って、プログラマビリティ」だ。そしてステーブルコインだけではなく、ステーブルコインのさまざまなユースケースを生み出し、活かすような他の技術革新を広く追いかけようと思っている。
ネガティブケイパビリティは、いわば “揺れながら考える力”。不確定な中で、ずっと考え続ける。AIが進化すればするほど、皆が簡単に答えを求めるようになっているが、AIは過去のデータを蓄えているに過ぎない。我々に求められるのは、3年後5年後を見通すことであり、それはAIにはできない。だからこそ、いろいろな条件が出てきたらどうなるかを “揺れながら考え続ける”。これが大事だと思っている。
ステーブルコインも、分散型金融も、いろいろなものが揃うとまったく違うユースケースが生まれてくるだろう。ずっとウォッチし、考え続けていくつもりだ。
|インタビュー・文:増田隆幸
|撮影:多田圭佑


