一般社団法人日本量子コンピューティング協会は2月4日、日本初となる「耐量子セキュリティ認証マーク」制度を含む総合支援サービスの提供を開始した。量子コンピューターの進化による暗号解読リスクが現実味を帯びる中、企業のデジタル資産保護に向けた体制整備が急務となっている。一方、暗号資産業界では、イーサリアムやコインベースが量子耐性への移行を積極的に進める一方、ビットコインは分散型ガバナンスの制約から対応が遅れており、投資家の資本配分にも影響が及び始めている。
日本量子コンピューティング協会とblueqat、AI Forward、ZebraQuantumの3社は、企業向けの耐量子暗号移行支援サービスを開始した。同サービスは、暗号資産の棚卸しから実装支援、教育プログラムまで包括的な対策を提供する。
最大の脅威は「Harvest Now, Decrypt Later(HNDL)」と呼ばれる攻撃手法だ。攻撃者は現時点で解読不可能なRSAやECC暗号化データを大量収集し、量子コンピューター実用化後に一斉解読を狙う。内閣サイバーセキュリティセンターも、この脅威への早期対応の重要性を明記している。
同協会が導入する認証マーク制度は、NISTが標準化を進めるML-KEMやML-DSAといった耐量子アルゴリズムを、従来暗号と組み合わせたハイブリッド方式で実装する企業に付与される。暗号アジリティ(Crypto-Agility)の獲得を通じ、将来の暗号方式変更にも柔軟に対応できる体制構築を目指す。
コインベース、イーサリアム、オプティミズムは量子耐性アップグレードを積極的に進めている。コインベースのブライアン・アームストロングCEOは1月、暗号理論と量子コンピューティングの専門家で構成される独立諮問委員会の設立を発表した。委員会にはスタンフォード大学のダン・ボーネ氏やイーサリアム財団のジャスティン・ドレイク氏らが参画する。
イーサリアムは2036年までにECDSAベースの外部所有アカウントを廃止する10年計画を策定した。ポスト量子対応のスマートコントラクトアカウントへの移行により、既存アドレスや残高を維持しながらスムーズな移行を図る。オプティミズムも、OP Stack上でプラグイン形式のポスト量子署名実装を可能にする設計を採用している。
対照的にビットコインは苦戦している。マイクロストラテジー会長のマイケル・セイラー氏は1月25日、量子コンピューターよりもプロトコル変更の試みこそが最大のリスクだと警告した。分散型ガバナンスのため、中央集権的な迅速対応が困難であり、ネットワーク全体での合意形成に時間を要する構造的課題を抱える。
ジェフリーズのクリストファー・ウッド氏は、主力ポートフォリオからビットコインの投資比率を10%削減し、金や鉱山株に再配分した。一方でハーバード大学は2025年第3四半期にビットコイン保有を約240%増加させており、機関投資家の対応は分かれている。
量子コンピューティングの進化は、暗号資産業界に新たな技術革新の機会ももたらす。ブロックチェーン技術の安全性向上は、金融インフラ全体の信頼性強化につながる。イーサリアムが主導するポスト量子暗号の研究開発は、次世代セキュリティ基盤の構築に貢献している。
コインベースの諮問委員会は、公開研究やリスク評価を通じてエコシステム全体の知見向上を図る。透明性の高い情報共有により、業界全体が協調して量子時代に備える体制が整いつつある。量子耐性技術の標準化が進めば、より安全で堅牢なデジタル資産管理が可能となる。
ただし課題も残る。Chaincode Labsの2025年調査によれば、公開鍵再利用により流通ビットコインの20〜50%、少なくとも626万BTC(時価6500億〜7500億ドル相当)が量子攻撃に脆弱と推計している。DARPAは2030年代に重大な脅威が現れる可能性を示唆しており、時間的猶予は限られている。
また、Projection Calculatorによれば、この重大なリスクが差し迫っていることを示し、量子ハードウェアの能力が時間の経過とともに指数関数的に伸びていることがわかる。
今後10年は、暗号資産ネットワークが量子耐性セキュリティへ移行できるか試される期間となる。積極的に準備を進めるチェーンと、分散型調整に制約されるチェーンの差が、資本流動やセキュリティ戦略に長期的影響を及ぼす可能性がある。


